多様で公平、インクルーシブな職場は、組織にとってより良いビジネス成果をもたらします。多くの企業がこのような目標を掲げていますが、その進展は遅々としています。現在、多くの組織が安全でインクルーシブな職場を創り出すために必要な変革に取り組んでいます。このガイドでは、多様で公平、かつインクルーシブな職場を構築するために、どのように戦略を行動へと移すかを詳しく説明していきます。
ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン(DEI)とは
DEIとは、従業員の属性にかかわらず、多様で公平かつインクルーシブな環境を作り、維持するという企業の使命を遂行するための施策、方針、戦略、実践の総称です。米国の場合、属性は以下のような項目が挙げられます。
- 人種
- 性的指向
- 性自認
- 障がいの有無
- 宗教
- 年齢
- 配偶者の有無
- 社会経済的状況
- 国籍
DEI文化の醸成は、ダイバーシティ推進において不可欠であるだけでなく、公平でインクルーシブな職場づくりによって、従業員のポジティブなエクスペリエンスを生み出すことにも寄与します。
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職場におけるダイバーシティとは?
公平性の問題に取り組むには、人種、民族、性別、年齢、宗教、障がい、性的指向が異なる人材を集めるだけでなく、多様な経験、教育、スキル、思想、個性を持つ人を採用する必要があります。組織が多様であると言うためには、その組織が活動する社会の構成員の属性を映し出すだけでなく、インクルージョンの取り組みによって、制度的な偏見を取り払う必要があります。
上記の定義ですべてを説明できるわけではありませんが、職場の多様性を定義するこれらの大まかな分類は、組織内に存在するギャップを特定するのに役立ちます。また、職場の多様性を高めるための指標や目標を設定する機会にもなります。
ワークプレイス・エクイティとは?
平等がすべての人に同じ機会を与えるのに対して、職場におけるエクイティ (公平性) は、実際にその機会を与えられている人の数が従業員の属性割合に比例していることを意味します。言い換えれば、公平性は障壁をなくし、競争の場を公平にするものです。
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ワークプレイス インクルージョンとは?
職場のインクルージョンは、社会的な規範や行動を通じて、すべての従業員が平等に参加し、貢献する機会を与えられ、歓迎されていると感じられる環境を醸成します。
SAPのPeople SustainabilityのGlobal Head & Chief Diversity and Inclusion OfficerであるJudith Williamsは、「多様性なくして真のインクルージョンはあり得ない」と明言しています。
「全員が同じ背景、期待、経験を持っていれば、インクルージョンの実現は本当に簡単です。異なる背景や経験を持つ人々が活躍するために何が必要かを考える必要はないのです。
しかし、性別、世代、文化的背景が混在する組織で実際に多様性が生まれたときこそ、根本的な問いを投げかけることができるのです。「私たちは包括的であるか」、「公平であるか」、「人々は帰属意識を感じているか」、「誰もが最高の自分自身を仕事にもたらすことができるか」。
職場におけるDEIのメリット
多様性、公平性、インクルージョンが実践されている組織では、すべての従業員の声に耳を傾けることができます。また、モラルが高く、社会的に優れた職場が形成されます。このような結果自体が、既にDEIの功績です。また、職場における DEI は、さまざまな競争上の優位性を生み出し、組織の収益性にも繋がります。
多様性、公平性、インクルージョンが高い環境の利点は次のとおりです。
- 財務パフォーマンス:マッキンゼー・アンド・カンパニーが行った調査 (英語)によると、民族的に多様な企業は、国内の各業界の中央値を上回る財務的リターンを得る可能性が35%高いことが分かっています。また、性別が多様な企業は、国内の業界平均を15%上回る可能性があります。
- 選ばれる職場になる:Glassdoorに(英語)よると、求職者の67%が、企業を評価し内定を検討する際に、多様な人材を重要な要素として見ています。
- イノベーションと成長:ハーバード・ビジネス・レビューに (英語)よると、多様性の豊かな企業は、新しい市場を獲得する可能性が70%高いことが分かっています。また、前年比で市場シェアが増加する可能性も 45% 高まるという数値が提示されています。
- 従業員エンゲージメントの向上:ミレニアル世代の83%が、自分の組織がインクルーシブな職場文化を醸成していると考えている場合、積極的に仕事に取り組んでいると報告しています。一方、インクルーシブな職場文化を醸成していない組織では、その割合は60%に減少します。(Gallup社の調査によると、 低エンゲージメント従業員の生産性ロスは年間3,500億ドルに達すると試算されています)。
- 意思決定がさらに強力に:Forbesが行った調査(英語)によると、多様性のあるチームは最大で87%の確率でより良い意思決定を行っているという結果が出ています。
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なぜ職場のDEIが「いま」重要なのか
米国での一連の抗議行動につながったアフリカ系市民に対する広範かつ反復的な不正義に対して、多くの働く人々が怒りやストレス、恐怖を感じていると報告しています。企業・組織が持続的に行動を起こす必要性がこれほど明確になっていることはありません。
「これを一過性にせず、ムーブメントにするために、組織は自身を見つめ直し、「誰を雇っているか」「誰を昇進させているか」「もっと公平に機会を配分するようにできないか」と問いかけなければなりません」
SAPのPeople Sustainabilityのグローバルヘッド兼Chief Diversity and Inclusion OfficerであるJudith Williams氏。
“この問題に取り組む組織は、これを機会に、より公平で、平等で、より公正な組織になることができるでしょう。”
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また、COVID-19や景気の先行きに対する不安もいまだに払拭されていません。多くの従業員が、職場の外で起きている問題から大きな影響を受けていることは明らかです。
スライブ・グローバルのCEOであるアリアナ・ハフィントン氏は、「今、私たちの社員は、かつてないほど未来に対する深い不確実性の影響を受けています」と述べています。「これは、生産性の面でも、同僚との関係の面でも、働き方に影響を与えるでしょう。」人種差別の打破や多様性、インクルージョン、帰属意識が最近重視されるようになって、さらに重要視されてきています。
ミレニアル世代やジェネレーションZなどの若い世代が職場に占める割合が増えるにつれて、制度的な人種的偏見や蔓延する(身体的・精神的)健康危機への対処に加え、多様で公平、インクルーシブな職場はより重要性を増してきます。これらの若年層は、これまで以上に文化的に多様化し、政治的な視点、価値観、目的、経験によって動機づけされるようになると考えられています。
多様で公平、インクルーシブな職場環境・文化を構築することは、企業の競争力を高め、優秀な人材の獲得と維持を可能にし、またすべての従業員が歓迎され、安全だと感じる帰属意識を育みます。
職場でDEIを醸成するための手法とは
職場の多様性、公平性、インクルージョンを促進することは、大まかに言えば、どの組織であっても、すべての人に平等な機会を与え公平な扱いをするという概念を推進することにあります。しかし、実際は組織毎に事情が異なるため、職場のDEIを推進するやり方も変わってきます。
今日のDEIについて最も重要なのは、単なる取り組みにとどまらず、企業文化全体が多様性、公平性、インクルージョンを受け入れる必要があるということです。
これは一朝一夕に達成できることではありません。しかし、多様性を理解し、取り組みに全面的に参加する新入社員が入社してくれば、不平等の根本的な原因は解消され、よりインクルーシブな環境と文化が育まれるでしょう。
ここでは、そのための12のステップをご紹介します。
ステップ1:多様性、公平性、インクルージョンのための活動を実践する
まず大事なのは情報を得ること、つまり歴史、背景、文脈を学ぶことです。「私たちはまず自分自身を教育する必要があります」とジュディス・ウィリアムズは言います。「Googleで検索すれば、反人種差別の資料がたくさん出てきます。」
ステップ2: データを掘り下げる
次のステップは、数字の観点から自社の現状を把握することです。そのためには、人材データを収集し、属性毎(リーダーシップチームを含む)に分析する必要があります。データが揃えば、達成したいDEI目標のベンチマークと数値目標を設定することができます。
例えば、次の表は、従業員エンゲージメントにおいて肯定的に回答しているのは、ネイティブ・アメリカン従業員では54%、ノンバイナリー(性自認を固定しない)従業員では48%にとどまることを示しており、そのほかの従業員と比べて著しく低い結果となっています。このような格差は、DEIの取り組みが最も必要なグループを指摘しているとも考えられます。
ステップ3:測定可能な目標を設定し、責任を持つ
面接設定率や通過率、採用者の属性に関する指標など、測定可能な目標を設定する組織は、多様で公平、かつインクルーシブな従業員の育成に成功を収める可能性が高くなると考えられます。
もう一歩踏み込んでみることができるなら、Adidasのようなブランドに倣い、マイノリティグループからの雇用を推進することを公に約束することも考えられます。
もう一つの方法は、測定可能な成果を報酬に連動させることです。役員などリーダー層の報酬だけでなく、全社の報酬にも連動させることができます。例えば、マイクロソフトでは、会社全体のボーナスを、ダイバーシティの指標の達成度に連動させると発表しています。
ステップ4:採用プロセスを見直す
採用パイプラインと、採用チームが新入社員を獲得するために用いている戦略を見直ししましょう。募集要項の掲載先を戦略的に検討することも必要です。同じような属性の求職者ではなく、これまで無視されてきた、あるいは存在に気づいていなかった多様な人材にアプローチしていきましょう。
一部の求職者層に対しては、特定のウェブサイトに求人を掲載したり、特定の出版物に広告を出したり、専門の団体に働きかけたりして、募集戦略を積極的に展開する必要があります。
“DEIは、採用の際に強力な競争優位性を発揮します。多様な候補者を採用し、多様な従業員が定着するような包括的で公平な職場環境を作る企業は、人材獲得競争に勝つことができるでしょう。”
Rusty O’Kelly氏 (Russell Reynolds Associates マネージングディレクター)
ステップ5:企業カルチャーへの貢献を意識して採用する
採用において企業カルチャーとのフィット感を重要視している企業は多いですが、先進的な企業では、企業カルチャーへの貢献 という観点で新入社員を採用することを推奨しています。つまり、会社の価値観に合うだけでなく、多様な経験、視点、経歴を持つ社員を採用するのです。
「テクノロジー業界では、カルチャーに合致しているかを重視した採用が多く見受けられます」とJudith Williams氏は説明します。「その代わりに、文化的貢献のために採用すべきです。つまり、『この新しいメンバーは、自分達がまだ持っていないスキル、経歴、視点など、私のチームに何をもたらすのか』と自問自答し、違った考え方をする必要があるのです。」
役職に最適な人物を採用するのではなく、チームにとって最適な人物を採用すべきなのです。
ステップ6:DEIを企業のDNAに組み込む
企業の価値観と同様に、企業の多様性、公平性、インクルージョンに関するミッション・ステートメントを文書化しましょう。最適な職場の多様性声明は以下の通りです。
- 簡潔に
- 会社のミッション
- ダイバーシティへの取り組み
- 前向きでインクルーシブな言葉
- 特定のマイノリティ グループへの言及
ステップ7:意図的・長期的なオンボーディングプログラムの導入
オンボーディング(入社研修)は、新入社員が入社した最初の1週間だけでなく、その後も継続的に行われる必要があります。新入社員が成功するために、少なくとも6カ月、あるいは最初の1年間は継続的にサポートするオンボーディングプログラムを構築してください。
Rusty O’Kelly氏は、「新入社員研修の一環として、新入社員(特にマイノリティに属するメンバー)にはメンターを付けるようにしましょう。「そして、一定期間ごとに、両者の関係がうまくいっているかどうかを確認し、再評価します。」
ステップ#8:「マイノリティ税」を回避する
また、組織として良かれと思って行った施策が、意図しない結果として、例えば有色人種や性的嗜好に偏りのある人々の業務負担を増大させてしまうこともあります。
例えば、採用委員会にもっと女性を登用したいと考えたとしても、100人いるチームのうち女性が3人しかいない場合、限られた人数の女性に対し、責任のある仕事が追加で発生することになります。また、委員会に参加するにあたり必要となる業務のトレーニングを受けておらず、業務の遂行に困難をきたす場合や、このような追加の仕事が昇進に結びつかない場合も少なくありません。
ステップ#9: ERGと経営層との連携
従業員リソースグループ (ERG) を経営層のサポーター (スポンサー) と連携させ、職場のDEIを改善する方法について会話できる環境を醸成します。この連携は、組織内の多様な人材がどこにいるのかについて、リーダー層を教育 するのにも役立ちます。
ステップ#10: コミュニケーションの場を解放する
リーダーシップラウンドテーブル、常時フィードバックの仕組み、Slackなどのコミュニケーションプラットフォームにより、社員は自分の経験を共有し、アイデアを提供することができます。
画像はイメージです。
ステップ11:孤立を感じやすい在宅勤務者をサポートする
リモート環境 では、同じ空間を共有して仕事をするのとは異なる種類の問題が発生しがちです。例えば、外向的な性格の従業員は、同僚と関わり、刺激を受ける機会を失ってしまいます。一方、内向的な従業員は、ビデオ会議特有の問題に直面します。従業員のことをよく知り、彼らのコミュニケーション、学習、社交の好みをできるだけ早い段階でサポートできるようにしましょう。
ステップ#12: 発言が歓迎される企業カルチャーを醸成する
人は誰でも皆、盲点を持っています。組織を前進させるために有意義な会話をするために、従業員が自分の考えや懸念を口にすることを奨励しましょう。
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